活動レポート

柔軟な働き方を実現する、”会社と当事者の関係性”とは? 【サイバーエージェント・曽山哲人×キャンサーペアレンツ・西口洋平】

柔軟な働き方を実現する、”会社と当事者の関係性”とは? 【サイバーエージェント・曽山哲人×キャンサーペアレンツ・西口洋平】

「事業主は、がん患者の雇用継続に配慮するよう努めなければならない」と、2016年にがん対策基本法改正案で定められました。一方では、過去に前例がなく、何をどうしたらいいのか、困っている人事担当者や経営者の方は多いのではないでしょうか。

 

がんアライ部発起人の西口洋平は、35歳で胆管がんが判明し、元々勤めていたエン・ジャパン株式会社での仕事と、一般社団法人キャンサーペアレンツの活動、そしてがんの治療を両立しています。なぜ今の働き方が実現できたのか。当事者と会社はどんな関係性をお互いに築けばいいのか。西口と株式会社サイバーエージェントの取締役人事統括・曽山哲人さんとの対談で、一つの答えが見えてきました。

戦力外にされてしまうかも。恐怖心で、最初は上司に言えなかった

 

−−西口さんは現在、どのような働き方をしているのでしょうか?

 

西口:約1年半前に正社員からアルバイトに切り替えて、今は週2〜3日のシフト勤務です。通院は週に1回で、他の日に同世代のがんサバイバーのコミュニティ『キャンサーペアレンツ』で活動をしています。がんが分かって3カ月間休職した後、約1年間は週4日、残業なしで営業の仕事をしていましたが、働き方を変えたいと会社に相談しました。エン・ジャパンの平均年齢は、サイバーエージェントと同じぐらいで30歳前後。圧倒的に20代が多くて、会社としても病気への関心はほとんどなかったですね。

 

 

曽山:がんであることは、まず誰に伝えたんですか?

 

西口:人事部長です。僕は営業だったので、「戦力外にされてしまうかもしれない」って恐怖があって、上司には言えなかったんです。中途入社の人事部長は、たまたま過去にがんに罹患した社員への対応経験があって、冷静に、感情を入れずに対応してくれた。今考えるとありがたかったですね。僕自身が精神状態が不安定だったので、「会社を辞めて、治療に専念した方がいいんじゃない?」と言われていたら、辞めてしまっていたかもしれません。ただ、伝え方はこれでよかったのか、未だに分からないんですよね。

 

曽山:分からない、というと?

 

西口:人事部長が上司に根回しをしてくれたんですけど、上司からしたら、その流れは納得がいくものだったのか。「何で俺に先に言ってくれなかったんだ」って思いがあったのかな、と。こういう相談のフローは、サイバーエージェントではどうしているんですか?

 

曽山:当社の場合は、意識的に上司に負担がいかないようにしていますね。そもそも健康問題の対応に関して経験量が多くないため、働き方や制度をどのように変えればよいのかわからないという上司が多いのも事実です。人事で巻き取れる限りは巻き取って、マネジャーには業績においての人間関係やチームビルディングに専念してもらっています。

 

西口:マネジャーも安心ですね。

 

曽山:基本的には最初の道筋のところで人事がサポートに入ることが多いです。「こういう点で気になることがあったらまた人事に上げてね」と言っておけば、現場に任せる部分と何かあった時に人事が動くべき部分が明確になります。僕は“ブーメラン思考”を自分に言い聞かせていて、現場で何か健康に関する問題が起きたとしても、基本はそこに対して仕組みを作れていない人事の責任だと思っています。そう考えた方が、改善策も出るんですよ。

 

 

会社と社員がお互いに寄り添わなければ、個別対応はできない

 

 

曽山:正社員からアルバイトへの転換というのは、大きい決断ですよね。どのように意思決定されたんですか?

 

西口:きっかけはセカンドオピニオンでした。「転移があるので手術はできない」と言われて抗がん剤を始めたんですけど、1年間元気だった。それなら手術の可能性もあるかもしれないと思って、他の病院に行ってみたんです。でも、やはり手術はできないという話で。自分が“ヤバイがん”であることを痛感して、これまでの働き方に疑問を持ち始めました。

 

僕としてはキャンサーペアレンツの活動をしたかったから、最初は会社を辞めようと思ったんです。でも一方では、「10年以上お世話になったのに、このまま辞めていいのか?」という想いもあった。それで社長に、「社外の活動に時間を使いたいけど、会社に対しても貢献したい」って気持ちを率直にぶつけたんです。そうしたら社長が「全部やったらいいじゃん」って言ってくれて、相談の結果、アルバイトに切り替えました。社長がやれと言ってくれたことが大きかったですね。

 

曽山:まさに信頼関係ですね。素晴らしいと思います。

 

−− 一方では、社員への平等性を考えたときに、「一人のためにどこまで対応すべきなのか」という悩みを人事の方から耳にすることは多いです。曽山さんはどうお考えになりますか?

 

曽山:その一人が働き続けることで成果をあげてくれるのであれば、僕は個人の成長も業績向上も実現したいので、できる限りのことをします。これまで頑張ってくれた人の声は絶対に聞いてあげたいのが人情です。よく「平等」と「公平」を混同してしまいがちですが、僕は分けて考えるべきだと思っています。ポテンシャルも経験も能力もみんな違う中で平等に扱うというのは、全員を画一的な労働力、例えば機械と見なしているのと同じこと。もちろん公平であることは重要だから、社員が会社に相談できて、会社も聞く耳を持っているという関係性を築くことは大前提ですけどね。

 

西口:僕は要職にいたわけではないし、同期の中でも決して出世していた方ではない。でも過ごしてきた時間が長いぶん、つらい時もいい時も、一緒にやってきたっていうことがあったから、こういう働き方ができているんだと思います。

 

曽山:中長期的な視点で言うと、会社という組織で何かを判断する時は、「会社が成長するために、この意思決定は必要なのか」という考え方をします。例えば西口さんのように、副業をしながら週2〜3日勤務をすることを正社員の状態で認めてしまうと、他の正社員に申し訳ないという会社の事情がある。でもそうすることで業績が上がるのであれば、ぜひその形で活躍してほしいわけです。このジレンマの中で判断をするので、西口さんが会社に寄り添って率直に話をしたことによって、議論がしやすくなっただろうなと思います。

 

 

西口:「できることがあるならやらせてください」っていう前提で、雇用形態や給与にはこだわらないという気持ちをちゃんと伝えて、今の働き方が成立しました。もし僕が一方的に権利を主張していたら、結果は違っただろうなと思います。

 

曽山:おそらく難しかったと思います。僕らも社員に寄り添うし、社員も会社に寄り添ってくれる。その両方があって初めて、個別対応ができるものなんですよ。

 

西口:個人としても、一方的に何かを受け取るのは違和感があるんですよ。会社がサポートし続けてくれることに対して、信頼関係があればあるほど、申し訳なく感じる人の方が僕は多いと思うんです。その瞬間はいいけど、長期的にはしんどい。本人が何かしらを会社に返したいと思って、会社側も何かをサポートしたいと思う。うまくお互いが気を遣えればすごくいい関係性になるけど、そこがずれてしまうと難しいですね。

 

 

個人と会社の事情を“and”で解決する会社が増えれば、治療のあり方すら変わるかもしれない

 

−−サイバーエージェントもエン・ジャパンも、平均年齢は30歳前後と伺いました。西口さんはご自身の体験から、20〜30代の世代に知っておいてほしいことはありますか?

 

西口:僕自身、35歳でがんって言われるまで、「がんは死ぬ病気」という偏見を持っていたんです。でも今は通院で治療ができることもあるし、副作用も抑えられてきています。僕みたいに働けるし、髪の毛が抜けない人もいる。さまざまな人がいることをまずは知ってほしいですね。30代で罹患する確率は低いけど、0%ではないですから。

 

曽山:がんも他の病気も、やはり当事者以外には伝わらないんですよね。そういう意味で、健康診断をきちんと受けることが、若い人ができる最善のアクションだと僕は思っているんです。啓蒙の勉強会は浸透度合いが人によってばらつきがあるし、会社ができる努力は健康診断をしっかり受けてもらうぐらいしかないのかな、と。

 

西口:どうしても、健康な人は病気に興味がないんですよね。真面目なことだけをやっていても、全然広がらない。曽山さんのような方にご協力いただくとか、ムーブメントに繋げることが大事ですが、当事者とその他の人の間には高い壁があるなぁと感じます。

 

 

−−西口さんは、働きながらがん治療をする意義はどのようなところにあると思いますか?

 

西口:「生かされている」って感じるんですよ。お金の話になりがちですが、僕はがんになる前と比べて年収は3分の1くらいになったけど、不満は全然ない。妻は不満でしょうけどね(笑)。病気と戦ってばかりいたら、とっくに僕は死んでいたはずなんですけど、病気のことを忘れて会社の仲間たちと議論をするとか、そんなことが病気と闘う力になっていたと思うんです。

 

会社側はなんとなく、これまで年収500万円だったら、働き方を変えても同じ年収をあげなきゃいけないと思っているところがある。でも、「これまでの仕事量の半分しかできないから、年収は250万円でいい」って考えの人の方が多いんじゃないかと思います。そういう柔軟性を会社が持てれば、働ける人はもっと増える。それによって薬だけでは治らなかった人たちも、仕事を通じて元気になれるはずです。そういう会社が増えれば、治療のあり方が変わることすらあると思います。

 

曽山:「and思考」と言っていますが、個人の思いと会社の事情を“and”で解決する方法を考えることが、人事の鉄則だと思っています。今日のお話もそうですよね。西口さんが会社と自分のためをandで考えて、働き方や給与を議論した。個人も会社も、どっちもプラスになるならやればいい。ゼロでもイチでも、片方がマイナスになるような方法でもなく、双方がプラスになる折り合いがどこにあるのかを考える。そういうスタンスが大事なんだなということを、お話を伺っていて改めて感じました。

 

西口:「がん患者を働かせるな」って人もいるけど、僕はやっぱり「働きたい」と思っている人の方が多いと思っています。そういう人たちの後押しをする動きを作っていくのと同時に、患者側はもっと「会社にとって何がプラスになるのか」を考えなきゃいけない。どうしても患者側の方が言いたい放題言えて、一方的に権利を主張してしまいがち。歩み寄りが難しくなってしまっているように感じます。そこを翻訳して繋ぐことが必要で、それこそが「がんアライ部」の役割だと思っています。

 

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取材・文/天野夏海

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