活動レポート

「社員を支える=制度」じゃない。人事ができる、信頼関係を築くコミュニケーション術【サイバーエージェント・曽山哲人×クレディセゾン・武田雅子】

「社員を支える=制度」じゃない。人事ができる、信頼関係を築くコミュニケーション術【サイバーエージェント・曽山哲人×クレディセゾン・武田雅子】

「事業主は、がん患者の雇用継続に配慮するよう努めなければならない」と、2016年にがん対策基本法改正案で定められました。「社員を支える=制度」となりがちですが、それ以外に人事ができることはあるはず。

 

そこで株式会社サイバーエージェントの取締役人事統括・曽山哲人さんと、がんアライ部発起人の株式会社クレディセゾン取締役の武田雅子が対談しました。二人が考える、がんと就労の両立支援における人事の役割とは?

「わかるよ」なんてありえない。大事なのはその人しか知らない情報を聞くスタンス

 

 

−−曽山さんは前回の岩瀬との対談で、武田さんは第1回がんアライ部勉強会で、それぞれ「個別性が大事」というお話をされていました。個別性を大事にするためには何が必要なのでしょうか?

 

武田:やはりコミュニケーションですよね。ともすれば「過去に事例があるから、乳がんなら知っている」となりがちなのですが、そういうことではない。毎回“初めてのこと”としてコミュニケーションを取るスタンスに、いかに持っていくかが大切です。

 

曽山:その通りですね。僕らの場合は個別に話をよく聞くことが第一です。思いを全部吐き出してもらうことが一番大事で、相手は人事でもいいし、産業医やカウンセラーの方でもいい。

 

武田:私自身、乳がんを経験した時に、乳がんに罹患した方が集まる会へ行ったことがあるんです。同じ乳がんの方はいっぱいいたのに、私と全く同じ気持ちの人は一人もいない。結局、誰にも私の気持ちは分かってもらえないと痛感しました。だからこそ、「わかるよ」なんて言葉はありえなくて、私が分かるのは“分かってもらえないという気持ち”の部分だけです。謙虚な気持ちが大事だと思いますね。

 

曽山:その人の気持ちはその人にしか分からない。だからこそ、 “その人しか知らない情報”を聞くスタンスは重要ですよね。分かっているような態度で話を聞くのではなく、きちんと気持ちを聞く。がんや病気に限らず、キャリアの相談もそうですが、面談の中で“聞いて欲しいだけ”という要素があることを、上司は知っておいた方がいいかもしれないですね。

 

武田:意外と、特に何も言わずに話を聞いただけなのに、ものすごくテンションが上がってスッキリして帰っていく人はいますよね。こういう人が私は大好きです(笑)。忙しくて自分のことをちゃんと考えられていない人は多いもの。話しながら整理されることはたくさんありますし、“聞くこと”のすごさはありますよね。

 

情報管理の主導権は本人にある。ただし、「隠したいけど配慮は欲しい」はフェアじゃない

 

 

−−話を聞く上で、がんだからこその注意点はありますか?

 

武田:基本の考え方はキャリアの相談と同じですが、唯一がんが違うのは、治療が長くて、体調や気持ちに波があること。“社員”と“患者”の役割を何度も行ったり来たりするんです。この間元気そうだったからもう大丈夫、ではなく、“今”どうなのか。毎回初心で接することの大切さは、自分の経験からも、社員を見ていても感じます。主治医の見立てや治療計画に関する情報をその都度キャッチボールすること。

 

曽山:主治医から伝えられている病気の経過を、本人と確認することは重要だと思います。本人が言える範囲で構わないので、通院の頻度や次の検査の日程などを聞いて、そのタイミングで「何かできることがあったら言ってね」と声をかける。本人にとって病気に向き合うことは初めてのことなので、健保組合や会社の制度などを伝えて、選択肢を広げてあげることも安心に繋がると思います。ただし、あくまで情報管理の主導権は本人にあります。病気のことをちゃんと伝えたい人がいる一方で、できるだけ最小限に留めたい人もいる。本人の意思に寄り添ってあげることが大事です。

 

武田:がんをカミングアウトすることがいつも是ではない。この間他社の事例を聞いてハッとしたのは、がんのことは機微情報(相手にあまり知られたくない情報)だから、人事は秘密を守って当たり前だと思っているじゃないですか。当然社員も同じ認識でいると思っていたら、「どうせ上司に共有するんでしょ?」と思っている社員もいたという話を聞いたんです。人事がどう情報を扱うのか、社員に周知することが改めて必要だと思いました。

ただ、「隠したいけど配慮は欲しい」というのはフェアじゃない。がんであることは言わなくてもいいけれど、「婦人科系の持病があって通院が必要」とか、何らかの理由があることは上司に話さなければとも思います。

 

曽山:おっしゃる通りですね。本人の希望と現実のマネジメントのリアリティを踏まえて、その上で一番良くなるように擦り合わせていく。制度に当てはめると無理が生じますし、寄り添って聞いてあげることが本当に大切です。

 

武田:ルールにするほど面倒になっていきますし、現場が頭を使わなくなります。現場に裁量を持たせた方が工夫をするし、本人も上司も人事も、みんなが楽なんですよ。その前提となる考え方や価値観さえ合意しておけば、現場は回ります。自分たちで決めたことの方がしっかりやりますし、ローカルルールはウェルカムですね。

 

曽山:自分の意思が込められていれば、自分でちゃんと動きますよね。当社では半年に一回、組織の目標を組織のメンバー全員で考えています。目標が共有化されているチームは強いんですよ。

 

その人の仕事ではなく、その人自身に興味を持つことが信頼関係をつくる

 

 

−−個別性を大事にするには、その人が”今”どういう状態なのかを知るために、謙虚にコミュニケーションすることが重要なんですね。率直に話をするためには信頼関係が必要だと思いますが、信頼関係はどのように築いているのでしょうか?

 

曽山:当社には“その人の仕事”に興味を持っている上司が多いんですよ。大前提として、社員ががんに罹患したから関係性を作ろうとしても無理で、どんなものが好きで、何が強みなのか、普段から“その人自身”に興味を持つこと。そのために当社ではチームの飲み会費用を月5000円補助する「懇親会支援制度」を用意しています。僕自身、頑張ろうと思えるのは、同僚が自分を個人として尊重してくれている感覚があるから。“作業をこなせる人”と見られてしまったら、相手を信頼できないのも無理はないと思います。

 

武田:私が理事を務めている「CSRプロジェクト」では就労世代のがん罹患者の電話相談を受けていますが、職場での悩みの約半分は、結局は社員ががんに罹患する以前からの悩みです。がんに罹患した社員への対応というより、それがきっかけで露呈したマネジメントや組織そのものに対する相談なんですよ。

 

−−お二人は“その人自身”に興味を持つために、何かしていることはありますか?

 

曽山:僕は週に3〜4回、社員と食事に行っています。部署やグループもごちゃ混ぜで、若手やマネージャー、偶然エレベーターで一緒になったメンバーを誘うこともあります。4〜5人で行くので、1週間で20人以上と会話ができる。月80人、年間で約1000人です。回数や人数を半分にしても年間500人ですから、中小企業の規模であれば全員と接点が持てるのかなと思います。

 

 

武田:私は2004年から採用を担当しているので、社員にとって他の役員と比べて距離感が近く感じるんだと思います。研修でも顔を合わせるし、飲みに行くこともあるので、もともと接するときに気構えられていない気はしますね。だから廊下で呼び止められて、こっそり個人的にがんの相談をされるケースもあります。偉い人だと思われてないんですよ(笑)

 

曽山:社員に寄り添った方が情報は入るし、その人自身の力も引き出せます。「人事部は怖い」みたいなイメージは一般的にあるかもしれないですが、少なくとも僕は嫌われる人事にはなりたくありません。権限を振りかざすのではなく、議論をしたいんです。厳しい判断であっても、その背景の考え方をきちんと伝えたい。

 

武田:嫌われたり怖がられたりした瞬間に心を開いてもらえないし、それがモチベーションに繋がるとは思えないですもんね。

 

−−改めてがんと就労の両立支援という分野において、人事の役割はどういうことだと思いますか?

 

曽山:不安を取り除くこと。人材育成において、「働く上での障害の排除」がキーワードなんです。何か困っていることがあれば、それを取り除く。人事が直接関わることもあれば、何か仕掛けることもあります。それが結果的に本人のやる気や能力を引き出すことにつながると思っています。

 

武田:私は「仕事に集中できる環境をつくる」ことと言っています。がん、子育て、介護など、さまざまな事情を抱えながら活躍しようとしてくれている人に対して、どれだけ環境を整えてあげられるのか。そのためにも、何でも話せる安全な場をつくること。私はがんサバイバーのOGでもあるので、「私に話しても大丈夫」という事実を、ストーリーとして社内に発信しています。環境づくりがいかにできるかは、人事の大きな役割ですね。

 

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取材・文/天野夏海

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