活動レポート

がんのこと、周りにどう伝える?→状況を正しく知ってもらうために、伝道師を作る【ネクストリボン2019レポート】 - がんアライ部

がんのこと、周りにどう伝える?→状況を正しく知ってもらうために、伝道師を作る【ネクストリボン2019レポート】 - がんアライ部

ワールドキャンサーデーである2月4日、公益財団法人日本対がん協会と朝日新聞社主催のもと、『ネクストリボン2019 がんとの共生社会を目指して~企業の対策最前線とこれからの働き方~』が行われました。

 

パネルディスカッション「がんとの共生社会を目指して」では、さまざまなテーマが議題に上がりました。本記事では、「がんのこと、周りにどう伝える?」についてご紹介します。

 

 【この記事に登場する登壇者】

国立研究開発法人 国立がん研究センターがん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部長 高橋 都 さん

株式会社電通第21ビジネスプロデュース局 ビジネスプロデュース部 部長/LAVENDER RING 発起人 御園生 泰明 さん

コーディネーター:朝日新聞社 上野 創さん

※詳しいプロフィールはこちら 

 

がんのこと、周りにどう伝える?

 

朝日新聞社・上野:がんの問題には、「周りにどう言うか」という難しさもあると思います。私自身、病気のことや治療の状況を周りになかなか伝えられませんでした。御園生さんは当事者で、かつ社員という立場ですが、この点についていかがですか?

 

電通・御園生:僕の場合はレアケースだと思うんですが、上司が僕の病気のことを皆にメールしてくれました。送る前に文面を見せてくれて、すごく配慮をしてくれましたし、よかったなと思っています。

 

 

 

電通・御園生:その経験を通じて感じたことは2つあって、一つは「状況を正しく知ってもらう」ということ。もう一つは、「応援してもらえる空気を作る」こと。この2つが大事かなと思いました。

 

まず「正しく知ってもらう」についてですが、知らないことに対して、人はいろいろ話したくなっちゃうんですよね。少ない情報をもとに話すので、不要な誤解が生まれたり、間違った認識や変な噂が広がっていったりしてしまう。それを食い止めるために、正しい情報を出すことは必要だと思います。

 

それを仕事関係者の誰に伝えるか。全員に話すのは現実的には難しいですし、疲れてしまってストレスにもなります。僕のメールでの一斉送信の例は特殊ですが、「この人に聞けば正しい情報が分かる」というコア人材を作るのはいいんじゃないかなと思っています。結果としてその人が伝道師のように、社内に広めてくれるといいですよね。

 

じゃあ、その伝道師に何を伝えるのか。一番大事なのは「仕事をしたい」という意思です。やっぱりがん患者に対して、「君は仕事をしたいのか」ってダイレクトに聞ける人はなかなかいないと思います。そして、治療のフェーズですね。がんという病気の特殊性の一つは、医療の発展によって治療期間が長くなっていることだと思います。調子が良い時もあれば、悪い時もある。

 

例えば僕はこの1カ月ぐらい、治療の副作用で目があまり見えていないんですね。ただ、目以外はかなり調子がいい。つまり、目が見えないから資料を作るのは厳しいけど、考え事はできるという状況です。一方で、その前の時期は倦怠感があって、考えるのはしんどかったけれど、単純作業はできました。こういう、その時々で異なる状況を説明するのは大事だと思っています。

 

国立がん研究センター・高橋:そもそも言わないっていう判断もあると思うんです。特別な配慮が必要なければ言う必要はないですよね。ただ、何らかの形で配慮が必要なのであれば、どうしても説明は必要です。こればかりは以心伝心というわけにはいかなくて、体のだるさなどの目に見えないところは、本人にしか分からないですから、それを言ってもらえると周囲はすごく助かるんです。やはり直接は聞きにくいものですから。

 

同時に、これはコミュニケーションの本当に大事な問題だと思いますが、会社側は「本人がいかに病気のことを言いにくいのか」ということを理解しないといけないと思います。「何か不利益を被るのかな」とヒヤヒヤしながら、言おうか、どうしようか、当事者は迷っている。そこは慮っていただけるといいなと思いますね。

 

朝日新聞社・上野:もう一つの「応援してもらえる空気を作る」というのはいかがでしょう?

 

電通・御園生:一番大事だと思うのは、自分の人生を素晴らしいものにしたいと、「自分自身が自分の人生の可能性を信じること」です。僕の場合は仕事をしたいと宣言したことでしたが、自分のことを信じていない人間を応援しようという気持ちには、なかなかならないんじゃないかなと思います。

 

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株式会社櫻井謙二商店 代表取締役社長

櫻井 公恵 さん

1967年生まれ、千葉県出身。中央大学卒業後、不動産会社勤務を経て、同県銚子市で生家が営む食料品卸売業に入社。代々、社員に何かがあった時は臨機応変に対応し、雇用を維持してきた。38歳で消化器の希少がんGISTに罹患した夫も、本人の希望により、亡くなる2週間前まで働いた。2010年より4代目社長に就任。今年で創業87年目。44人の社員と共によりよい働き方を模索している。GIST・肉腫患者と家族の会「NPO法人GISTERS」の副理事長や厚生労働省「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」(2014年)のメンバーも務める。


国立研究開発法人 国立がん研究センターがん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部長

高橋 都 さん

1984年、岩手医大医学部卒業。10年間一般内科臨床に従事したのち、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学博士)。同大医学系研究科公共健康医学専攻講師、UCLA公衆衛生大学院客員研究員、獨協医科大学公衆衛生学准教授を経て、2013年4月より現職。一貫して、がん患者や家族の心理面を含めた社会的支援に関する研究と社会啓発に取り組んでいる。共編著に「企業のためのがん就労支援マニュアル」(労働調査会, 2016)、「終末期医療」(丸善出版, 2012)、「死生学5~医と法をめぐる生死の境界」(東京大学出版会, 2008)など。

 

テルモ株式会社 人事部長

竹田 敬治 さん

1962年生まれ、大阪府出身。1986年、テルモ株式会社に入社。各部門の人事業務に携わった後、2017年より現職。また健康管理担当として、子会社も含めた健康経営推進の横断組織のリーダーも担い、社員の健康増進に取り組んでいる。2017年には「がん就労支援制度」を設け、治療を受けながらでも柔軟に働ける環境を整備。社内外に明確に発信することで、職場や家族が一体となって支える体制を構築した。医療に携わる企業として、社員の健康は重要なテーマ。社員の健康が企業の持続的成長につながると考え、社員がいきいきと健康で働ける会社を目指している。


日本航空株式会社 代表取締役副社長執行役員 健康経営責任者

藤田 直志 さん

1956年、神奈川県生まれ。1981年に入社し、2010年2月に執行役員、2016年4月より代表取締役副社長に就任。2017年度からCWO(Chief Wellness Officer)として健康経営の責任者となる。社員の健康がまず重要との考えに基づき、JALグループ全社員の健康とその先にある豊かな人生、企業理念の実現に向け、先頭に立って健康経営を推進している。

 

株式会社電通第21ビジネスプロデュース局 ビジネスプロデュース部 部長/LAVENDER RING 発起人

御園生 泰明 さん

1977年生まれ、千葉県出身。東海大学卒業後、中堅広告会社勤務を経て2005年に株式会社電通に入社。ビジネスプロデュース局にて部長を務める。家族は、妻、小学3年生の息子と幼稚園年長の娘の3人。2015年、ステージ3Bの肺腺がんの告知を受ける(のちにステージ4)。化学療法や放射線などによる治療のため通院しながら、周囲の支えと働きかたの改善により変わらず仕事を続けている。本業の傍ら、「がんになってもいきいきと暮らせる社会を作る」ことを目的にした有志によるボランティア活動「LAVENDER RING」を立ち上げた。

 

コーディネーター:上野 創さん
朝日新聞社 東京本社社会部教育チーム記者。1971年生まれ、東京育ち。早稲田大学卒業後、1994年に朝日新聞社入社。横浜支局に勤務していた26歳の時に肺に転移した精巣腫瘍が見つかる。手術、抗がん剤治療を受け、1年後に職場復帰を果たしたが、その後2度再発し、入退院を繰り返す。体験を連載記事「がんと向き合って」で公表し、後に出版、日本エッセイストクラブ賞を受賞。その後は社会部で教育をテーマに取材活動をしながら、がんサバイバーの生き方や「いのちの教育」などもテーマとして追い続けている。2010年に担当した連載記事「ニッポン人脈記 がん その先へ」が第30回ファイザー医学記事賞大賞を受賞。

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