活動レポート

どんな業務が発生する? 仕事と治療の両立を目的にしたフローレンスの新制度「安心ストック休暇」ができるまで

どんな業務が発生する? 仕事と治療の両立を目的にしたフローレンスの新制度「安心ストック休暇」ができるまで

がんアライ部発起人の駒崎弘樹が代表を務める認定NPO法人フローレンスで、今年4月に新制度『安心ストック休暇』がスタートしました。仕事と治療の両立を目指して導入されたもので、消滅有給を最大40日間まで積み立てることができる制度です。2018年3月で消滅する有給分から対象となり、自動的に安心ストック休暇に積み立てられます。制度の導入までに、どのような議論を重ね、どのような業務が発生したのか。人事の甲斐綾子さんにお話を伺いました。

 

【お話を伺った方】

甲斐綾子さん(働き方改革事業部 サブマネージャー/写真左)

「病気になっても働き続けられる」というメッセージを発信することで、“辞める”以外の選択肢を持ってほしい

 

現在、日本ではがん罹患者の3人に1人が退職または解雇されており、社会問題となっています。また、フローレンスでもがんを含む病気と就業の両立に課題を感じていたことが、今回の制度が生まれるきっかけとなりました。

 

「以前から、治療のために休んだスタッフの出勤率が下がり、翌年度の有給が付与されず、さらに欠勤が続き……という、負のサイクルがあるのを感じていて。医療技術の発達に伴って“長く付き合う病気”が増えている中で、人事スタッフの間で課題意識があったんです」

 

スタッフに子育て世代が多いフローレンスでは、子どもの発熱など、いざという時のために有給を残しておく人も少なくありません。消滅してしまうその有給を、積み立てることができたら。インターネットで調べた結果、実際に同様の制度を導入している企業があることも判明。2017年10月に予定されていた勤怠システムの改修に合わせて制度化できないかと、同年の春頃から検討が始まりました。

 

 

「働き方の制度や休職制度・勤務形態の変更など、病気に限らず、フローレンスでは柔軟に働き方を選ぶことができます。今回の安心ストック休暇と組み合わせれば、働きながらの治療もしやすいはず。何より、制度を通じて『病気になっても働き続けられる』というメッセージを会社が発信することで、“治療のために仕事を辞める”以外の選択肢をスタッフが持てるのではないか。そんな想いがありました」

 

制度検討から導入までのフロー&ポイント

 

安心ストック休暇導入の検討を始めてから制度の概要が固まるまでに、発生した業務は以下の通り。

 

【制度の概要が固まるまで】

①制度化に向けての人事の想いや目的の明確化

②安心ストック休暇制度の取得要件定義

③具体的な運用と制度概要の経営承認

 

最も活発に議論が行われたのが、②の対象者の定義決めでした。

 

「多くのスタッフに使ってもらうことを考えたら、家族の看病や介護も含めるなど、対象者の定義はできるだけ幅広くしたい。ただ、あくまでもこの制度の目的は、『“スタッフ自身”のために使える制度をつくる』ことでした。看護休暇や介護休業など、家族のために利用できる制度はすでにあるけれど、自分自身のために使える制度が少ないことが課題だったんです。そこがブレないように、何度も確認を重ねながら進めました」

 

こうして決まった対象者の定義がこちらです。

 

1.がん、脳卒中、その他難病など反復・継続して1年以上治療・リハビリが必要となる事由であり、当団体が主治医・産業医の意見を元にこの制度の使用を認めた場合

2.不妊治療の検査や通院の必要があり、当団体が主治医・産業医の意見を元にこの制度の使用を認めた場合

 

「人事だけでは医療の専門的なことは分からないので、産業医の先生にも相談をしました。治療だけでなくリハビリも対象に入れること制度利用を認める際に主治医と産業医の意見を聞いて判断することの2つは、アドバイスをいただいて取り入れています」

 

こうして制度の内容が確定してから実際に導入するまでには、次の業務が発生しました。

 

【制度の概要が固まってから導入まで】

④制度運用のための仕組み化

⑤就業規則の改定

⑥勤怠システムの改修

⑦社内への周知(制度名の社内公募)

 

「仕組み化は人事チームのみではなく、システムチームを巻き込み進めました。消滅有給を自動的に積み立てるには、どう運用するのがいいのか。スタッフは600人もいますし、ミスが発生してはいけないので、人事が手作業で管理をするわけにもいきません。勤怠システムの改修にも関わりますから、ここを固めるのは人事だけでは難しかったですね。就業規則の改定は社労士の先生と、勤怠システムの改修はシステムチームやシステム会社と話し合いを重ねました」

 

こうしてでき上がった制度を周知させるために一役買ったのが、制度名の社内公募でした。

 

「初めての公募でしたが、全部で19件の制度名が集まりました。想定していたよりも多く応募があって、しかも半数以上が保育の現場スタッフからの応募だったことがすごく嬉しかったです。名前を募集したことで、制度の概要だけでなく、目的や導入の背景も伝えられたのかなと思います」

 

他の会社の制度をそのまま導入しても、生きた制度にはならない

 

制度導入までにかかった期間は約1年。最初に安心ストック制度の案を聞いた時、「いいじゃない!と思いましたね」と、代表の駒崎さんは振り返ります。

 

 

「病気や不妊の治療をしている現場スタッフの声を聞いていたので、その人たちの顔が思い浮かびました。『あの人にこの制度が届いたらいいな』って、嬉しくなりましたね。ただ、どんなに想いを込めて素晴らしい制度を作ったとしても、使われなければ意味がありません。他のスタッフを巻き込むことが重要だっていう話をしたのですが、結果的に名前を公募するっていう案が出てきて。それによって制度やその想いがスタッフみんなに腹落ちしていったのはすごくよかったと思います」

 

同様の制度を導入したい企業へのアドバイスを甲斐さんに尋ねると、「制度の目的をしっかりと考えることが一番大事」という答えが返ってきました。

 

「当社で制度を作るときに重視しているのは、『フローレンスらしい制度になっているか』ということ。スタッフの想いや要望を汲み取ることが重要で、それがあって初めて“自分たちの制度だ”とスタッフに認識してもらえる。それがベースにあることで、“フローレンスらしい制度”になっていくんだと思います。だからこそ制度の目的や想いを明確に伝えたいし、スタッフ自身にも『何のための制度なのか』を考えてほしい。他の会社で活用されている制度をそのまま導入しても、生きた制度にはならないと思います」

 

もちろん会社による部分はあるものの、「制度の目的さえしっかりしていれば、この制度を導入する難易度はそれほど高くない」と甲斐さんは続けます。

 

「ライフステージによって働き方は変わりますが、一緒に乗り越えていきたいし、スタッフそれぞれにあった働き方で、長くフローレンスで働き続けてもらいたい。そうして柔軟な働き方を実現して、その動きを社会全体に広げていくことは、私たち働き方革命事業部のミッションでもあります。他のNPOや企業にも、こうした動きが広まっていくといいなと思っています」

 

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取材・文:天野夏海

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