活動レポート

がんに関する代表的な相談とその対応って?相談デスクを設置したベネッセコーポレーションに聞いてみた - がんアライ部

がんに関する代表的な相談とその対応って?相談デスクを設置したベネッセコーポレーションに聞いてみた - がんアライ部

がん対策をしようと思った時、過去に働きながらがん治療をした事例がなければ、当事者の困りごとや必要な配慮はなかなか想像ができないもの。そこで「相談デスクを設置し、産業保健スタッフと連携したフォロー体制を確立している」ことが評価され、東京都が行った『がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰』の大企業部門で優秀賞を受賞した、株式会社ベネッセコーポレーションを訪ねました。

 

同社の相談デスクには、がん罹患者からどのような相談がきているのでしょうか?また、その対応方法についても伺いました。

 

<お話を伺った方>

藤原美穂さん(人財企画部 労務課 課長)

姫野久美さん(人財企画部 労務課 保健師)

あらゆる相談ができる窓口を設置して以来、傷病休暇の取得者数は年々減少

 

ベネッセコーポレーションに相談デスクが設置されたのは、2008年のこと。その背景は、中途入社の社員数が増えたこと、メンタルヘルスの不調を抱える方が一定数いた中で、早期発見・早期対応の考え方に基づく体制を構築したいと考えたことです。

 

藤原さん「社員がイキイキと活躍して働く環境を整えるために、相談の受け皿となる体制を作ろうと設置しました。がんに特化しているわけではなく、あらゆる相談が対象となります。心や体の不調以外に、職場でのコミュニケーションに困っているといった悩み事も含め、相談を一手に引き受けています」

 

 

相談デスクの情報は社内のイントラネットに掲示されており、メール、電話のどちらでも相談ができます。親近感を持ってもらいたい、相談のハードルを少しでも低くできたらという思いで、連絡先と併せて相談デスク担当者の簡単なプロフィールを載せているそうです。

 

相談デスク担当者4人のうち、医療スタッフは保健師の姫野さん1人。他の3人は一般社員が担っています。全国の支社からの相談を受け付けていますが、支社ごとにそれぞれ相談デスクの担当を決めています。また、各組織には、各組織を見ている人事担当(カンパニー人事)がおり、そのカンパニー人事担当者と連携を取りながら対応をしています。

 

姫野さん「まずカンパニー人事担当者に相談がいき、その後に相談デスクに連絡が入ることもあります。相談を受けた後は基本的に本人と対面で面談を行なっていて、遠方の場合であっても出張して会いに行くようにしています。面談後は相談デスクで面談を継続したり、上司との面談を組んだり、産業医の先生に繋げたりと、本人の希望や状況によって対応は変わります」

 

相談窓口に寄せられる相談件数は、多い月で120件ほど。担当者一人当たり30件ほどの相談を受けています。

 

藤原さん相談デスクを設置して以来、傷病休暇の取得者数は年々減っています。現在も日々さまざまな相談が入っている状況ですが、早期発見・早期対応が目的なので、気軽に相談してくれているということだと思います。相談の結果、状態が悪くならずにお仕事を続けることができればと願って対応しています」

 

 

「早く復帰したい」「治療がうまくいかない」がんに関する代表的な相談事例と対応方法

 

では、がんに関する相談内容にはどのようなものがあるのでしょうか。相談デスクに寄せられる相談の中から、代表的な相談と、その対応について伺いました。

 

【ケース1. なるべく早く復帰して、仕事と治療を両立するにはどうしたらいい?】

 

姫野さん「これは最も多い相談です。私は昨年当社に転職してきたのですが、真面目で仕事熱心な方が多いことに驚きました。過去に働いていた職場では、この機会にゆっくり休もう、と考える人もいたのですが、当社はそういう方がほとんどいません。社風によって相談内容も変わるんだなというのは発見でした。ある程度自分で調べた上で相談にくる方もいて、教育の会社らしいなぁというのも印象的です(笑)」

 

相談を受けた後は復帰までの流れがスムーズに進むよう、治療経過や近況等をふまえて、相談デスクが先を見据えて逆算しながら見通しを立てています。復帰の条件は、週5日、1日7時間のフルタイム勤務ができること。

 

藤原さん産業医との面談を経て復帰するというのが、基本のプロセスです。フルタイムで働けるかどうかの最終判断は、職場の状況や仕事内容をよく知る産業医の見解を得て人財企画部にて行なっています。フルタイム勤務が治療しながら働く上でハードルになるのかもしれないという課題感はあるものの、慣らし勤務や時短勤務は今のところ用意していません。当社は誠実で真面目な方が多く、なるべく早く復帰したいという方も多いですが、無理をすると本人にとって良くないので、体力的に本当に大丈夫なのかなど注意して見ています」

 

フルタイム勤務とはいえ、コアタイムのないフレックス制度を採用しているため、働く時間の自由度は高い同社。在宅勤務制度を利用したり、通院しやすいように勤務地を一時的に変更したり、一定期間半日単位での有給取得を認めたりと、時に特別対応を取りながら柔軟に対応しています。

 

【ケース2. 復帰したけど、本当に大丈夫?】

 

藤原さん「『実際に働いてみたら思っていたより体がつらかった』という本人からの相談もありますが、『本人は言わないけど、なんだかつらそうで心配』『無理してないって本人は言うけど、本当に大丈夫?』と、上司の方から相談が入ることもあります。本人に情報開示の了承をとった範囲内で、上司に具体的な配慮を伝えたり、気になったら随時連絡をくださいとお願いしたりと、上司と連携することはすごく大事だと思います」

 

上司が本人にどこまで配慮したらいいのかが分からないというケースはよくあるもの。姫野さんは「上司と当事者が直接コミュニケーションを取っても理解してもらうのは難しい場合もある」と指摘します。

 

姫野さん「産業医と相談デスク、人事、上司がタッグを組んで、本人をサポートしていくことが大切だと思います。主治医から説明された膨大な医療情報を本人が上司や職場に伝えて理解してもらうのはハードルが高いですし、一人で全部説明するのは大変なことです。上司に産業医との面談に同席してもらうなど、皆で共有する場も必要です。産業医から医学的な助言含め説明してもらえれば、上司は必要な配慮が分かりやすいし、本人も安心できるのではと思います」

 

【ケース3. 治療がうまくいっていません】

 

姫野さん「思うように働けない不安から、『治療の効果が出ていないのでは?』と本人から相談がくることがあります。会社は医療機関ではないので治療のアドバイスをすることはできませんが、場合によっては、本人の同意を得た上で、産業医から主治医に情報共有を行うことも。主治医の先生は患者の仕事内容が分からないことも多いので、仕事の状況や会社の制度を説明しながら、状況などを尋ねています。より詳しい情報が手に入るし、本人が勘違いしているだけで治療は順調だと判明することもある。医療の専門知識がない当事者が理解するのは難しいことなので、産業医が間に入って橋渡しをしています」

 

藤原さん「産業医の先生は約10数年、当社を専属で担当してくれているので、会社のことをよくご存知でおられます。最近の状況や変化についてもよく分かってくださるので、『こういう相談が増えるのでは?』という予測も教えていただけます。そのような先生がおられることは、本当にありがたいですね」

 

「従業員と産業医の間に立つ人が上手く立ち回らなければ、どんなにいい産業医がいても機能しない」と姫野さん。

 

姫野さん「産業医とのコミュニケーションを取る上でのポイントは、定期的に会社の様子や考え方、制度の変更や取り組みについて共有すること。会社のことを知らなければ、産業医も適切な判断はできないので、常に相談できる関係性を築くことは重要だと思います」

 

 

がん治療中のアルバイトを契約社員登用。がんが懸念点となることは一切なかった

 

また、同社では1年ほど前に、がん治療中のアルバイトを契約社員に登用したことがあり、この点も先述した表彰で高く評価されています。同社が一切尻込みすることなく社員に登用できたのは、これまでに相談窓口を始め、がん罹患者をサポートしてきた経験があったことが影響しています。

 

 

姫野さん「もともとがんの治療をしながらアルバイトで働いていた方でした。健康診断の数値などを産業医に診てもらい、勤務状況や治療状況を含めた健康状態等を確認した結果、問題なく仕事ができると判断しました。その方のこれまでの活躍があったから実現したことで、たまたま能力のある方を社員登用しようと思ったら、がんを治療中だったというだけの話です。就業上の問題はなかったので、契約社員に登用するにあたり、がんが懸念点となることは一切ありませんでした

 

藤原さん「働きながら治療をしている社員への対応をしたことはありますし、治療を経て元気に活躍している社員の姿もこれまでに見ています。そういった前例が頭にあったのは大きいかもしれないですね。そもそもコアタイムなしのフレックス制なので、出社時間を遅くしてその分、退社時間を後ろ倒しにする方や、出社時間を早めてその分、早めに退社する方もいます。それに現在は全体の約3割が育児中の社員で、多くの方は時短制度を利用しています。たくさんの方がさまざまな働き方をしているので、治療中の方の出退社時間などが異なっていてもあまり目立たず、比較的気兼ねなく通院することができるのではと思います

 

同社のベースにあるのは、「志をもった人が会社の財産である」という会社のポリシー。長く活躍してもらうことを前提に、その上でどうすべきかを判断しています。がんだけを特別視するのではなく、さまざまな事情を抱えた人が、それぞれに合った働き方を実現できる環境を整備する。そうすれば、がんを含むあらゆる事態に対応していけそうです。

 

>>『がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業表彰』の詳細はこちら(ベネッセの事例は53ページより)

 

>>そのほかの企業事例はこちら

 

 

取材・文/天野夏海

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