活動レポート

サッポロビールの事例から見る、“特別なことをせずにできる”がん治療と就労の両立支援

サッポロビールの事例から見る、“特別なことをせずにできる”がん治療と就労の両立支援

がん医療と職場の架け橋を目指す『BCC(Bridge between Clinic & Company)』による、『第2回架け橋大賞』で、サッポロビール株式会社が『架け橋大賞大企業賞』を受賞しました。

 

そこで同社の取り組みについてインタビュー。「元々がん治療と就労のためだけに取り組みを始めたわけではなかった」という同社のお話を伺っていくと、“特別なことをしなくてもできる”取り組みが見えてきました。

 

<お話を伺った方>

・人事部労政グループリーダー 宮崎仁雄さん

・人事部健康管理センター保健師 吾妻美佳さん

・経営戦略部 村本高史さん(食道がんを経験)

 

 

制度はあるのに、社員がその存在を知らなかった

 

架け橋大賞企業賞で、「人間らしい思いやりに満ちた疾患予防企画、使いやすさに配慮した制度に、医療に直接かかわらない企業のモデルとしてふさわしい」と評価されたサッポロビール。人事部の宮崎さんは「これまでがんに罹患した社員には、本人と上司、人事部、保健師や産業医の医療スタッフと連携をしながら個別に対応をしていた」と話します。しかしそれでは限界があると痛感したのが、健保のデータでした。

 

 

就業上の措置をとらなければいけないがんに罹患した社員は年に1〜2名。それに対し、再検査を含めがん関係で治療を受けた人が相当数いたんです。軽微で済んだために顕在化していないだけで、潜在的には大きなものがあると驚きました」(宮崎さん)

 

がんと治療の両立支援を進めていくにあたって何が必要なのか。情報を集める中で耳にしたのが「制度はあるのに周知されていないから、社員が会社を辞めなければいけないのでは? と不安になっている」という意見です。

 

「まずは今ある制度をまとめて、必要な時にすぐに確認できるようにするのが第一歩。がんを含むあらゆる病気を抱える社員に向けたガイドブックの作成に取り掛かりました」(吾妻さん)

 

ガイドブックはイントラに掲示。既存の会社の制度を利用して、治療を続けながら働くことができることを周知するとともに、情報を1つにまとめることが目的です。非常にシンプルですが、特別なことをせずともすぐに取り組めて、かつ効果的な施策と言えそうです。

 

 

 

「本人に確認してほしい情報と、上司にマネジメントをする上で気をつけてほしいことを記載しています。がんに特化したところだと、がん治療をしながら仕事を続ける場合の時系列での具体例や、抗がん剤の副作用がつらい時に可能な配慮、通勤の負担を緩和する制度などですね。『病気の情報をどこまで職場のメンバーに伝えるか』というプライバシーの箇所では、『伝える』という選択をしたことによるメリットも記載しました。どういう形で治療と就労のバランスを取るのか想像できない方は多いと思いますが、マニュアル化することで、『何が障害になって、克服してくためにどんな手順があるのか』をイメージしやすくなればと思っています」(吾妻さん)

 

 

“がん治療をしながら働く”は取り組みやすい分野

 

ガイドブックは人事部とがんサバイバーである村本さんが連携して作成。会社側と当事者の視点の両方を踏まえた内容になっています。保健師の吾妻さんが他社のマニュアルを参考に叩き台を作ったそうです。「作成するときに、それぞれの視点には乖離があったと気づいた」と吾妻さん。

 

「最初のガイドブックの構成は『はじめに』の次がお休みの制度の説明でしたが、村本に『がんになったらすぐに会社を休まなきゃいけないように感じる』という指摘をもらいました。軽微であれば休まずに治療をすることも可能なのに、その視点が抜けてしまっていたことは反省でした。意見をもらって本当によかったですね」(吾妻さん)

 

ガイドブックは、先行して取り組んでいる他の企業からもアドバイスを得ながら、2017年8月に完成したばかりとのこと。それでも早速効果を実感しています。

 

「これまでも活用できる各種制度はいろいろあるものの、それぞれの掲載箇所を見て自分で情報を集めないと分からなかったのです。でも病気になってそんな余裕もない中で、『病気になったらこれを見てください』と渡せるものができた。クイックレスポンスに繋がり、情報発信としても効果的だと感じています」(宮崎さん)

 

ガイドブックの掲載事例は「外の勉強会で紹介されていたものをアレンジして使っている」とのこと。ベースになる資料があれば、作成にかかる手間は大幅に削減できます。社内向けにアレンジするだけで、受け手側も自分に置き換えてグッとイメージしやすくなるのもポイントです。

 

がんに限らず、これからはダイバーシティをより意識していく必要があります。高齢化も進んでいきますし、労働人口も減っていく中で、さまざまな事情を持ちながら、それぞれがパフォーマンスを発揮できるような仕組みや環境を常に高めていかなければと思っています。国としても推進しており、情報も出始めている今、がん治療をしながら働く環境を整えるというのは、取り組みやすい分野なのではないでしょうか」(宮崎さん)

 

 

たとえお金が保証されたとしても、それでも働きたい人は少なくないはず

 

人事部と連携してガイドブック作成を行ったがんサバイバーの村本さんは、2011年に食道がんの手術を行い、その際に声帯も摘出しました。現在は経営戦略部のプランニング・ディレクターとして働いています。当事者の視点から思う、がん治療と就労の両立支援に必要なことを伺いました。

 

 

2009年、食道の入り口にがんが見つかり、仕事をしながら通院で放射線治療を受けました。その2年後の2011年に再発して、手術をすることに。声帯を含む摘出手術だったので、声も失いました。約1カ月半入院し、およそ2カ月の自宅療養を経て職場に復帰し、数日でフルタイムに戻りました。

 

再発した当時は人事総務部長。自分の裁量が大きかったですし、人事制度のことも分かっていたので、とても恵まれていた立場だったと思います。積立休暇(失効した有給休暇を積み立てておける制度)などがあったことはもちろんですが、人間的に素晴らしい人が多い、あたたかい会社だったことが一番ありがたかったです。

 

 

私の場合、復帰するにあたって一番大きな問題は「声が出ない」ということでした。社内で知り合いと会ってもあいさつの言葉も言えないのなら、お互いに気まずい思いをするだろう。そう思って、復帰直前に、自分の現状に関するメールを社内外の人に送ったところ、たくさんの激励の返信をいただきました。休んでしまった申し訳なさを感じながら久々に出社したら、多くの人があたたかく迎えてくれて、本当に良い会社だなと思いました。

 

しばらくは筆談でコミュニケーションを取っていましたが、発声教室に通って少しずつ声を出せるようになってからは、耳をきちんと傾けてくれたのがすごくうれしかったです。一人でいると次第に悪い方向に考えが向かいがちですが、たとえ他愛のない会話でも、話ができれば「(自分も)まだまだ捨てたもんじゃないな」という気になれました。

 

 

がんサバイバーにとって“働く”とは何か。最近よく考えます。もちろんお金の問題は切実ですが、たとえお金が保証されたとしても、それでも働きたい人は少なくないのではないかと思いますね。特にがんを経験した直後の人は、死への不安を感じたり、生きていく自信が揺らいだりします。そういう時に働くことで、人との繋がりを実感して、「あなたが生きていていいんだよ」「働いていていいんだよ」という自分の存在価値を再確認できること。それががんサバイバーにとって非常に大きな“働く意味”ではないでしょうか。

 

 

制度は重要だが、土台はコミュニケーションや信頼関係 

 

前より量は減ったものの、今もビールはそれなりに飲んでいます。ビール会社でもあり、元々お酒は大好きです。

 

例えば「話しかけてよいのか」といったことに関して、「聞いたら悪いかな?」と思う人もいるでしょうが、聞いてもらってまったく構いません。関連して最近よく思うのですが、無難なコミュニケーションに留まっていては限界があるのではないでしょうか。

 

「無理しないでね」の一言を、言葉通り受け止めてありがたく感じる人がいる一方で、「本当はもっと働けるのに、そういうふうに言わないで」と思う人もいる。だからやっぱり無難なコミュニケーションから一歩踏み込んで、その人の考えを引き出すことが重要だと思います。

 

その一方で、がんサバイバー側からもどんどん発信をすべきだとも思っています。私の場合は「話しかけちゃ悪いかな」って気を使う人も結構いると思うので、できるだけ私からも話しかけるようにしています。また、自分の闘病体験やそこから感じた人生の目的と使命等を自分の声で伝える会を、終業後の時間を使って社内で開催しています。3年ほど前から始めて、昨年からは出張して他の事業場で開催したりもしています。

 

ただ、その人の環境や状況によってはがんサバイバー自身から発信することが難しいこともあります。そうなると、やはり上司や職場、企業全体でその人の思いを引き出して、一歩踏み込んだ率直なコミュニケーションをするのが大事なのではないかと思います。制度はもちろん重要ですが、制度をきちんと運用していくための土台はコミュニケーション。結局は、日頃から企業と従業員の信頼関係ができているのかが重要なのではないでしょうか。

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