活動レポート

100社以上の産業医を務めた第一人者に聞く、企業が「がん治療と就労の両立支援」に取り組むべき理由

100社以上の産業医を務めた第一人者に聞く、企業が「がん治療と就労の両立支援」に取り組むべき理由

民間プロジェクト『がんアライ部』では、がんの治療をしながらも働き続けられる社会を目指しています。一方では、なぜ企業ががん治療と就労の両立支援をしなければいけないのか、今ひとつピンとこないという人事担当者の方もいるのではないでしょうか。

 

そこで、大企業から中小企業まで多くの企業で産業医を担当した経験を持ち、がん治療と就労の両立支援の分野での第一人者でもある順天堂大学医学部公衆衛生学講座准教授の遠藤源樹先生に、その問いを尋ねました。

 

 

順天堂大学医学部公衆衛生学講座准教授 遠藤源樹先生 2003年産業医科大学医学部卒業。医師、医学博士、日本産業衛生学会専門医(産業衛生専門医)、公衆衛生専門家等。国の厚生労働科学研究・遠藤班「がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究」の研究代表を務めるなど、治療と就労の両立支援の第一人者。主な研究テーマは、「治療等と就労の両立支援(がんと就労、妊娠・育児と就労、不妊治療と就労、脳卒中・心筋梗塞と就労)「治療と就学の両立支援」。著書に『企業ができるがん治療と就労の両立支援 実務ガイド(株式会社日本法令)』がある。

“がんを抱える社員”は増えていく

 

−−これまで産業医としてたくさんの企業を担当されたと聞きました。がん治療と就労の両立支援の分野で研究をするようになったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?

 

産業医科大学医学部を卒業後、15年以上医師として産業医として就労支援に深く関わってきました。社員が突然がんと診断されることもあり、がん罹患社員、管理職、総務人事労務担当者、時には上役の方々と、コミュニケーションを交わしながら「がん治療と就労の両立支援」に深く関わってきました。

 

治療と就労の両立支援の研究をすることになったきっかけは、大企業と中小企業の違いを目の当たりにしたこと。100社以上の大企業の産業医を経験した後、中小企業の産業医を務めるようになったのですが、大企業と比べてあらゆる面で余裕がなく、「がんでは今まで通り働けないだろうし、申し訳ないけど辞めてもらいたい」という空気、そして、その空気を読んでいる人は少なくないですし、治療を受けていることを会社に申告していないケースも見受けられます。大企業もまだ十分とは言えませんが、なんとか両立支援のシステムや風土を中小企業にも広げていきたいと、この分野の研究をするようになりました。

 

−−まさに「なぜ病気の従業員への対応をしなければいけないのか」と思ってしまう経営者や人事担当者の方はいらっしゃると思います。

 

そうですね。ですが、今後は「がんになった社員に対して、どう対処するか」が社会から問われるようになると考えています。今は、特に中小企業や地方を中心に、人手不足が深刻化しています。社員を大事にしない企業は、社員が離職して、人手不足がより深刻化していくと思います。

 

−−というと?

 

総務省の統計によると、日本は、今後50年で就労世代の人口が半減することが見込まれているからです。これは日本だけでなく、欧米の先進国も共通ですが、就労世代のがん患者の就労支援の重要性が増していることもあります。医療の進歩によってがんの5年相対生存率が改善され、がんになっても働き続けることができる人が増えています。内視鏡治療や腹腔鏡治療など、身体への負担が少ない治療が登場したことで、早期の職場復帰も可能になってきている。今後も治療技術の進歩や新たな抗がん剤などにより、がん患者の就労は、より一般的になっていくことは間違いありません。

 

−−「がん=働けない」という認識自体がすでに古いものになってきているんですね。

 

少しずつですが、そうなっていくと思います。がん患者の約3割が就労世代。20〜40代では女性の方ががんになりやすく、働く女性が増えるに従い、専業主婦でなく企業で働いているときにがんと診断されるケースが増えてくるでしょう。

 

資料:総務省「労働力調査」

 

乳がんの罹患率から見ると、100人の女性が働く事業所であれば、約8人の女性が一生のどこかで乳がんと診断されることになります。定年退職の年齢は一般的には60歳ですが、その後、嘱託社員として働いているシニアの労働者の数は右肩上がりです。今後、60代のがん罹患社員の就労をどうするかも課題になってくると思います。

資料:内閣府

 

まとめると、医療の進歩で「がんでも働き続けられる人」が増え、女性やシニアの労働者が増えることにより、「社員ががんになる事例」も増える。2つの状況を鑑みると、がんを抱えながら働く人の増加が予想できるというわけです。

 

 

“がんでも働ける労働環境”の実現に時代の風は吹いている

 

−−企業によるがん治療と就労の両立支援を推進すべく、国も動いていることが先日実施した勉強会でも話に上がりました。

 

2016年2月には厚生労働省が「事業場に置ける治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表しました。治療と就労の両立支援に関する初のガイドラインで、これまでにない画期的なものです。

 

−−両立支援に向けて本気で取り組んでいく姿勢を国が明らかにしたのですね。

 

はい。さらに同年12月にはがん患者が安心して暮らすことができる社会の構築を目指したがん対策基本法改正案が国会で可決され、「事業主ががん患者の雇用継続に配慮するよう努めなければならない」ことが定められました。努力義務とはいえ、こうした国の動きを見ても、今後企業の取り組みは注目されていくはず。時代の風はがんになっても働き続けられる労働環境を整える方向に向かって吹いています。企業の対応が強く問われるようになっていくのではないでしょうか。

 

−−働き方改革が叫ばれていますが、同じようにがんになっても働ける職場環境を作っていくことが重要なんですね。

 

最近、企業は利益を出すだけでなく、労働環境を改善し、コンプライアンスの向上を図ることがより重要視されるようになっています。がんと就労の問題に限らず、困っている社員に対して手を差し伸べられるかどうかが、企業を測る指標のひとつになると思います。

 

 

誰もがリカバリーショットを打てる社会を目指したい

 

−−ちなみに、海外でもこのような問題意識はあるのでしょうか?

 

先進国共通の課題ですね。2016年9月に治療と就労の両立支援に関する国際会議「WDPI(Work Disability Prevention and Integration)2016」に参加しましたが、さまざまな国際共同研究が始まっています。日本のがんサバイバーシップ研究は遅れているのが現状。世界レベルに押し上げて、より多くの人ががん治療と就労を両立できる社会にしなければいけません。

 

−−日本の企業でのがん治療と就労の両立支援の現状については、どのように思われますか?

 

社会の現状から見て急務ですが、まだまだ厳しい状況にあるというのが実態ですね。ただ、国が両立支援に向けて動き始めていることもあり、がんになっても働き続けられる社会になりつつあるのは確かです。企業の注目度も高まっていますし、実際に人事制度を見直し始める企業も出てきています。

 

−−着実に変化は出てきているんですね。

 

今や「男性の2人に1人、女性の3人に1人」が一生のどこかでがんと診断される時代。人は誰でも、がんになって「働く」第一線から外れる可能性があります。より多くのがん罹患者が職場復帰し、就労を継続できる社会になるためには、日本中の企業が変わることが必要です。企業の皆さんに後押しをお願いしたいですし、みんなで知恵を出し合って、誰でもリカバリーショットを打てる社会を作っていきたいと思っています。誰しもある日、がんと診断される可能性はあるのですから。

Member部員

を押して、がんアライ部の部員になる

「がんアライ部」にご賛同いただける方はすべて部員と考えています。
まずはFacebookからつながり、一緒にがんとともに生きる社会をつくりましょう!