活動レポート

「いつ誰ががんになってもおかしくない」人事部に「保健室」を新設した株式会社ガスパルの健康経営の取り組み

「いつ誰ががんになってもおかしくない」人事部に「保健室」を新設した株式会社ガスパルの健康経営の取り組み

がんと就労の両立支援に取り組む企業には、どのような背景や想いがあるのでしょうか。具体的な施策とともに、そのストーリーをご紹介します。

 

今年がんアライ宣言をした、LPガス事業を行うガスパル。「がん治療でお休みをしている従業員がいるわけではない」という中で、がんアライ宣言をした理由を伺いました。

 

<プロフィール>

株式会社ガスパル

人事部長・小野さん

保健室 保健師・栃木さん

従業員の年齢層が上がれば、がんになる人も増える

 

——がんアライ宣言をしようと思ったきっかけを教えてください。

小野:当社は「先保後利。全従業員の働きがいを追求し、保安を極め、豊かな社会の実現に貢献する。」という経営理念を掲げており、従業員を大切にする風土はもともとありました。

 

▲ガスパルのウェブサイトより

 

小野:現時点では、がん治療でお休みをしている従業員がいるわけではありません。当社は従業員の約90%が20代〜40代であり、平均年齢は30代。がんや病気を自分ごととして捉えている人もそれほど多くないのが現状です。

 

ただ、ここ数年で創業当時から活躍してくれていた人たちが60歳になり、定年後再雇用となる人も出てきました。こういう例は今後も増えていくでしょう。従業員の年齢層が上がれば、がんになる人も増えると予想されます。

 

そのような背景から、がんに関する取り組みを強化しようと考えていた際、他企業の取り組みを目にする機会があり、弊社でもがんアライ宣言をしました。

 

——働きがいを追求し、従業員の皆さんを大事にする背景には、どのような想いがあるのでしょうか。

 

小野:当社のメイン事業はLPガスの販売です。各家庭に安全にガスを供給することが役割ですが、商品自体に他社と差別化できるポイントはそれほどありませんし、価格も大きくは変わりません。

 

一方、従業員がお客さまにどのような応対をするかは、事業において重要な差別化ポイントとなり得るものです。例えば引っ越しの際、ガスの開栓や閉栓にスタッフが立ち合いますが、お客さまのご自宅にお邪魔するわけですから、誠実な対応が求められます。

 

▲人事部長・小野さん

 

小野:働いている人たちが自身の仕事にやりがいを持っていなければ、お客さまに良い対応はできません。会社の経営理念が基盤としてあり、従業員の働きがいが高まることで、全てのステークホルダーに還元できると考えています。

 

——その基盤を整える一つが、健康経営やがんへの対応なのですね。

 

2020年、人事部の中に「保健室」を新設

 

——がんアライ宣言にご記載いただいた「サポート有給休暇制度」について教えてください。

 

小野:サポート有給休暇制度は、いわゆる積立有給制度です。付与されてから2年で失効してしまう有給を最大60日積み立てられるもので、特定の目的に使用が可能です。その目的の一つに「社員とその家族の病気療養」が含まれていました。過去には、がん治療で使われた事例もあります。

 

制度自体は2015年ごろからありましたが、2020年により幅広く使いやすくなるよう、制度改定を行いました。

 

——どのような改定をしたのでしょう?

 

小野:従来は1カ月間の入院など、長期の療養を想定していました。ただ、がん治療と仕事を両立する場合、特定の日に治療で休むといったケースの方が多いため、ピンポイントに1日単位で取得できるよう変更しました。

 

あとは2020年4月に、健康経営を推進する部門として「保健室」を人事部の中に作りました。人事部の担当がメイン業務と兼任してやっていた安全衛生に関する業務を、専門部署として独立させました。

 

保健室には現在1名の保健師がおり、社員からの健康に関する相談窓口も保健室に集約しています。部門として独立させることで、「従業員の健康を重視している」ことを分かりやすく伝えられればと思いました。実際に「保健室」という部門ができたことに対して、従業員からは大きな反響がありましたね。

 

栃木:「何かあったら保健室に相談をしてください」と周知していますが、窓口が明確になったことで、思った以上に個別相談が寄せられています。保健室から声をかけるなどの働きかけをすることもありますが、社員側から相談が寄せられることもあり、「何かあったら保健室に相談する」風土ができつつあるのを感じています。

 

▲保健室 保健師・栃木さん

 

小野:保健室は人事部の他部門とも日常的にコミュニケーションを取っています。例えば給与計算や勤怠管理をしている部門と情報交換をしながら、従業員の適切な休みの取り方を検討するなど連携もしています。

 

従来から従業員とのコミュニケーションを大事にしてきましたが、より密に従業員の声を聞ける保健室ができたことは、人事部にとって大きなプラスだと感じます。

 

——保健室ができたことによって、他にどのような変化がありましたか?

 

小野:以前は人事担当者が安全衛生分野を兼務していたので、相談を受けてから調べて対応することも多く、どうしてもスピーディーに専門的な対応をすることが難しい場面がありました。

 

一方、今は専門の保健師が対応することで、病気やメンタル不調へのフォローが今まで以上にしっかりとできるようになりましたね。従業員からの健康に関する相談に根拠を持って対応できるのは、専門職の強みだなと感じています。

 

栃木:「職場に伝えてほしくない」「人事には言ってほしくない」といった枕詞とともに相談を受けることもあり、守秘義務を持ちながら相談にのれる環境がつくれたのはよかったのかなと思います。

 

もちろん安全配慮義務がありますので、内容によっては関連部署にフィードバックをすることもありますが、いきなり人事部に相談するよりは相談しやすいのだと感じています。


あとは、保健室ができたことで、情報提供の機会が増えたことも大きいですね。3カ月に一回「保健室だより」として発信したり、社内の掲示板で健康に関する取り組みや制度について周知したりと、従業員が健康に関する情報に触れる場面が増えました。

 

 ▲保健室だより

 

気軽に相談できる体制を整え、心理的に安心して働ける環境をつくる

 

——がんや病気に罹患した方へのケアについて、組織全体の対応を引き上げるために行っていることがあれば教えてください。

 

小野:従業員のリテラシーを高めるために、メンタルヘルス系の研修を年2回行っています。一つは全社員向けのセルフケアに関するもので、もう一つはマネジメント層向けの上司の役割に関するものです。

 

栃木:最近では全国の各事業所の所長から連絡が来ることが増えていますが、マネジメント層向けの研修で、「相談窓口の保健室と連携することが大切。部下の異変を感じたら、とにかく保健室に連絡をしてください」と周知したことが背景にあります。

 

 ▲研修資料

 

——「何かあったらとにかく保健室へ」というメッセージは、上司の立場で考えるととても安心ですね。

 

栃木:そうですね。制度はあっても活用が不十分な状況もありますので、「制度はここで確認できます」「ここに連絡すれば説明します」といったことも含め、研修で説明をしてきました。

 

また、研修や保健室だよりで取り上げてほしいテーマを募集したところ、職場のコミュニケーションを含め、日常の困りごとが寄せられました。上司の皆さんの困りごとにも寄り添い、一緒に良い職場風土を作る働きができればと思います。

 

 

——今後の目標ややりたいことはありますか?

 

小野:特別なことというよりは、これまでの話にあったように、より気軽に相談をしてもらえる体制をつくっていきたいですね。取り組むべきことはたくさんありますし、それはそれで進める必要はありますが、それ以上に心理的に安心して働けることが何より大切だと思っています。

 

栃木:保健室ができて1年半、これまでは体制を整えてきました。今はまだ「保健室から発信している」という印象が強いのかなと思います。これからは従業員を巻き込みながら、一人一人の健康意識を高める方向に少しずつシフトし、健康経営はもちろん、生産性や仕事のモチベーション向上につなげていきたいですね。

 

小野:長い目で見れば、いつ誰ががんになってもおかしくないくらいの従業員数を当社は抱えています。実際、過去に従業員ががんに罹患した例はありますし、私の身近なところでも、がんに罹患し、少しの間療養した人がいます。

 

そういう意味でもさらに体制を整えていく必要がありますので、これから徐々に社内に健康意識や制度を浸透させていければと思います。

 

がんアライ部事務局の編集後記

 

「保健室」という名前が秀逸だなと思いました。パッとどういう部署なのかがわかるだけでなく、学生時代の気軽な保健室のイメージもあり、きっと従業員の皆さんもグッと身近に感じているのではと想像します。

 

制度や仕組みにはどうしても穴ができてしまいますが、「気軽に相談できる」風土を整えようとしていることも素敵だなと思います。がんアライ宣言では「制度より風土」を重視していますが、まさにそれを体現している企業さんでした。

 

がんアライ宣言の詳細はこちら

 

取材・文/天野夏海

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