活動レポート

コロナ禍でがん罹患者が感じている不安とは?人事が知っておきたい、がん罹患者の心と身体の変化【第8回がんアライ部勉強会レポート】

コロナ禍でがん罹患者が感じている不安とは?人事が知っておきたい、がん罹患者の心と身体の変化【第8回がんアライ部勉強会レポート】

9月29日、第8回目となる「がんアライ部勉強会」をオンラインで開催しました。講師はキャンサー・ソリューションズ代表&がんアライ部発起人の桜井なおみです。

 

テーマは「がん患者の心と身体の変化を知る ~ゆらぎを支えるコミュニケーション~」。桜井のがん経験や、コロナ禍のがん罹患者の不安など、お話をしています。本レポートではその一部を紹介します。

がんは、ものすごく長く付き合っていくもの

 

桜井が最初に乳がんに罹患したのは、2004年のこと。乳がんの中でもわずか1%しかいない特殊ながんで、治療法の確かなエビデンスもない状態。医師からは「5年後に生きている確率は6割くらい」と告げられ、大きなショックを受けました。

 

「私は最悪の事態を考えて最善に備えるタイプだったので、『4割死ぬんだな』と考えました。すごく怖かったです。ただ、気持ちの切り替えは早い方で、結局は今できる最善を考えるしかない。医療者の方はこれを『受容』と呼びますが、受け入れているわけではなく、受け入れざるを得ないというのが正しいと思っています」

 

自身ががんに罹患した経験を踏まえ、2007年からは働く世代のがん罹患者の支援活動をスタート。「CSRプロジェクト」で無料の電話相談を受ける他、スタッフ全員ががん罹患者で構成されたキャンサー・ソリューションズ株式会社の代表を務めています。

 

「ミュランという肺がんを患った医師の論文には、こんな一節があります」

 

生存率の向上を目指すばかりで治療が引き起こす課題を顧みないのは、先進技術を使って溺れる人を水から引き揚げたあと、咳き込んで水を吐く人をそのまま放置しているようなものだ

 

「これは35年前に書かれたものですけど、『水を吐くだけで精一杯の人たちを社会が放置している』のは今も変わっていないのではないかと思います。『治療が終わってよかったね』と言われても、本人は5年、10年たたなければ、治った気は全然しない。私自身も今、昔治療を受けたことによる後遺症や副作用とどう折り合いをつけていくのか悩んでいるところです。がんというのは、ものすごく長く付き合っていくものだと改めて思います」

 

新型コロナウイルス感染症による、がん罹患者の負担と不安

 

今回の新型コロナウイルス感染症とがんについて、桜井は「一般の方がコロナ禍で感じるストレスの他に、がん罹患者にとって『意思決定が増える』ストレスがある」と指摘します。

 

「がんに罹患すると、治療やカミングアウトの仕方など、さまざまな意思決定をしていかなければいけません。コロナ禍では、マスクをする・しない、外に出る・出ないなど、行動は自己判断に任せられた部分がありますが、この負担が心の疲労感につながっていると電話相談を受けていて感じています」

 

最近では、「通院しなきゃいけないけど、感染が怖い」「リモートワークができないので、通勤時に感染して重症化するんじゃないか」などの不安を抱えた方から、「どうしていいかわからない」という相談も増えているとのこと。

 

他に、新型コロナウイルスの感染拡大は、検査にも影響を及ぼしました。

 

「緊急事態宣言が出ている間、検査は原則中止という動きがありました。可能であれば延期するという対応が取られ、健康な人が行く検診は約1カ月間ほぼ停止、経過観察中の方の検査も延期になっています。つまり、通常通りに検診を受けていたら見つかっていたはずのがんが、見つかっていない可能性があります

 

「ぜひ“Go To 検診”で、体のチェックをして」と桜井。

 

「現状、日本のがん検診の受診率はすごく低いんです。その理由には『がんが怖い』というのがあります。だからこそ、『がんになっても大丈夫な社会』をつくることで、予防や検診にもっと踏み込んでいけるはず。がんになった人へのサポートももちろん必要ですけど、まだがんになっていない人たちに対しても、がんとともに歩んでいる人のことをもっと知っていただきたいと思っています」

 

心が大きく落ち込むタイミングの一つは、「患者になる前」の期間

 

桜井が参加しているストレスマネジメント研究班では「がんの罹患者はどのタイミングで気持ちが落ち込むのか」を調査。時系列で整理をしました。

 

「注目すべきは、心が大きく落ち込むタイミングの一つは、患者になる前の期間だということ。『検診で引っかかってから検査結果が出るまでの間』から心は落ち込み始め、がんと診断される時にさらに状態は悪化します。自分自身を振り返ってみても、病名が確定するまでの1〜2カ月間は、患者にもなれず、健康なのかもわからず、モヤモヤした状態が続いていたと感じます」

 

「そして、最も心が落ち込むのは『通院治療中』です。復職をするのもこのタイミングですから、企業が十分な配慮をしなければ燃え尽きてしまう可能性が高いのです」

 

他に「自分の生産性ががんになる前後でどう変わったのか」も調査。がんになって新しい人生を得た、いわゆる「キャンサーギフト」を見つけた人たちは「9割程度保てている」という結果が出た一方、がんになって以来ずっと落ち込んでしまっている人は、5.67と半分程度にまで生産性が落ち込んでいます。

 

「職場で対応に悩むのは後者のタイプだと思いますが、それでも生産性は半分以下にはならないんです。病気になる以前の1/2は生産してくれるので、それに見合った働き方やサポートをしつつ、生産性が下がった分をチームでどうカバーするのかが重要になります」

 

ポイントは、両立支援をずっとやるのではなく、1年程度でこれからの働き方について再契約をすること。「不適応のまま、がんになる前に戻そう、戻そうと頑張り続けるのは本人もつらい場合がある」と桜井は指摘します。

 

「落ち込んでいる人に多いのが、ホルモンの分泌バランスが崩れて不眠が続いているケースです。ストレスマネジメントが重要になってきますので、表向きの生産性だけではなく、『眠れているか』といった生活上の変化もチェックしていただけるといいですね」

 

「勤め先からどんな支援があったか、さまざまな調査で質問をしていますけど、『何もなかった』という回答が圧倒的に多いんです。周りの人と本人のニーズのキャップはものすごく大きい。『こういう制度を用意しています』『こんなふうに休めます』ではなく、これからの働き方を一緒に考えていくことがすごく重要です」

 

自分と似たような人と出会うことには、大きな意味がある

 

そんな考えの基、桜井は「ピアサポート」をテーマにした新しい活動をスタート。名前は「ワーキャンズ」。「Work(働く)」という共通のテーマに、「Cancer(がん)」、病気になってもできることはたくさんあるという意味を込めた「Can(可能)」を組み合わせた名称です。

 

「もしも職場に同じがんの経験者がいたら、社会保障制度の手続きや、職場でのカミングアウトの経験など、共有できることは多いですよね。たとえ会社で言いづらかったとしても、同じ業界や職種であれば、キャリアのイメージを共有できる部分もあるでしょう。体験者が一番具体的な解決策を持っていますから、現役で働いているがんサバイバーがいたら、『どうでしたか?』という話はやっぱり聞きたいんですよ」

 

医療と企業をつないで診断書でやり取りするだけでなく、がん罹患者にとって身近な伴走者を育てる。それがワーキャンズのゴールの一つだといいます。

 

「自分と似たような患者と出会うことには、大きな意味があります。気持ちを共有し、体験を聞き、悩みを相談できる人がいることは、孤独感や疎外感の軽減につながります。サポートする側にとっても、自分の体験を整理することになり、自己コントロール感を回復していけると言われています」

 

9月には、先行して4社合同でピアサポート研修会を開催。来年春にも研修会を行う予定です。

 

「がんアライ部のような応援団、がんになった本人同士、病気のケアをする家族同士など、同じ経験を持っている人をもっとつないでいきたいと考えています。会社の中でピアサポートのコミュニティーをやっていきたいとお考えの企業の方は、ぜひご連絡いただければと思います」

 

最後に、「がんになってもとにかく慌てないで」と桜井。

 

「落ち着いて行動するのが一番です。そして、『頼る勇気を持つこと』と『頼られる準備』を今からしてください。周りの人も慌てずに、本人が変わったわけではないですから、今まで通りにお付き合いをしてください。本人も自分なりに頑張っているので、1年くらいは生暖かく見ていただけたら両立支援はうまくいくのかなと思っています。大切なのは制度だけじゃない。そのことを理解いただければ幸いです」

 

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文/天野夏海

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