活動レポート

びっくり退職はどう防ぐ? 登壇者と参加者が考える「がんと就労」【CancerX 2020レポート】 - がんアライ部

びっくり退職はどう防ぐ? 登壇者と参加者が考える「がんと就労」【CancerX 2020レポート】 - がんアライ部

がんアライ部発起人の鈴木美穂が立ち上げた「CancerX」による「CancerXサミット2020」が今年も2月2日に開催されました。ここでは当日行われた分科会「CancerX JAM – 働く」の一部をご紹介します。

 

<登壇者プロフィール>

石田 周平さん (石田社会保険労務士事務所 代表・特定社会保険労務士)
金澤 雄太さん (株式会社ジェイエイシーリクルートメント デジタルディビジョン シニアプリンシパル)
西口 洋平さん (一般社団法人キャンサーペアレンツ 代表理事・厚生労働省がん対策推進協議会 委員・エン・ジャパン株式会社 人財戦略室)
森 亮介さん (ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長)
渡部 俊さん (朝日航洋株式会社 航空事業本部 営業統括部)

企業にとって、がんと就労は“非競争領域”

 

金澤:がんの告知を受けたショックや、がんになったら働けないというイメージから会社を辞めてしまう「びっくり退職」の問題について議論をしたいと思います。まず石田先生、たくさんの方から相談を受けていると思いますが、いかがでしょうか?

 

石田:9年ほど前から社労士の相談員として、がん患者さんやご家族の方から相談を受けていますが、びっくり退職してしまった後に相談に来る方の数は減っていません。がんとわかって頭が真っ白になって、誰にも相談せず、「会社に迷惑をかけてしまうから」と退職してしまう人は多いです。

 

 

石田:ただ、ご本人がパニックになってしまうのもわかるんですよ。ですので、休職中の方から退職のお話があった際は「また働けるようになってから一緒に考えよう」と、会社側にはぜひ引き止めていただきたいと思っています。

 

金澤:「事前に相談をしていれば辞めずに済んだのに」という方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?

 

石田:7~8割の方は辞めた後に後悔しています。告知された時はパニックになってしまっても、治療を続けていくうちに「会社からこういう配慮をしてもらえれば働ける」というふうに、本人の考えが変わってくる。多くの方が一時的な猶予をもらえていれば、退職することなく復職ができたのではと思います。

 

金澤:森社長は「がんアライ部」の活動を通して、企業のがんと就労を支援されています。退職の実態をどのようにご覧になっていますか?

 

:我々が調査した限りでは、がんを理由に転職したり時短勤務になったりすることで、約3割の方が「収入が減った」と回答しています。がんになった時、上長との信頼関係や会社の制度が整っているかどうかが大きな分かれ目になっているのを感じますね。

 

同時に、多くの企業の取り組みを伺う中で、企業規模によって課題感も強みも大きく異なるとも思っています。なかなか一つの処方箋というものはないですが、企業規模やカルチャー、業態などに合わせた取り組みをしている企業もたくさんいる。その事例を取り上げ、良い取り組みをベストプラクティスとして発信することが大切です。

 

企業は普段競争をしていますが、がんと就労の領域は“非競争領域”として、どんどん世の中に発信をし、社会全体の底が抜けないようにみんなで協力してやっていくのが大切なのではないでしょうか。

 

金澤:がんアライ部はがんと就労の取り組みをしている会社を「がんアライアワード」で表彰しています。受賞企業の中には小規模な会社もありますが、こういった会社の努力・取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか?

 

:大きく2パターンあると思っています。一つは、実際にがんに罹患された方がきっかけとなって、制度や風土が作られていくケース。もう一つは、がんを特別なものとして捉えずに、出産や介護といった働く上でのさまざまな課題の一つとして考えているケースです。

 

 

:たとえ制度をつくるのは難しくても、風土を大切にすることで気持ち良く、そして高いパフォーマンスを上げて働いてもらえるようにする。制度がなくても上長との信頼関係でうまくコミュニケーションを取る。がんアライアワードにご応募いただいた中にはそういった会社も見られ、これは素晴らしい強みだと思いました。取り組みを世の中に発信していただくことで、「これくらいならできるかもしれない」と勇気づけられる企業も増えるのではと感じています。

 

企業のがん対策はビジネスチャンスでもある

 

金澤:続いて当事者側のお話を伺いたいと思います。渡部さんはがんになってから会社を辞めようと思ったことはありますか?

 

渡部:正直、そんなことを考える余裕はなかったです。病気のことで頭がいっぱいになっている中で、今後どうしようかなんて考えられる人は多分いません。びっくり退職をしてしまっている人の多くは、先を見越しているわけではなく、ただただ辞めるという選択をしているのかもしれませんね。

 

少し落ち着いてくると今後について考えが及ぶようになってくるのですが、ここでも私の場合は退職という選択肢はなかったです。結婚式を挙げて半年後にがんに罹患したので、お金がスッカラカンの状態だったんですよね。がんになった自分を採用してくれる会社がある保証もないですから、今の会社で収入を得るしかない。金の切れ目が命の切れ目だと感じていました。

 

 

渡部:なので、「私を辞めさせないで」という雰囲気をつくらなければいけない。僕は自分が先導して社内の制度をつくりましたが、それだって自己防衛です。自分を守るために制度をつくれば、結果として他の社員にも恩恵があるんじゃないか。そういう考え方でやっています。そして、こうやってメディアに出ることによって、会社も私を辞めさせるわけにはいかなくなるだろうと。

 

また、私は営業職なので、会社に対して行動を起こす際は数字の話をします。「こういう活動をしていろいろなメディアに出ることで会社の広告にもなります。この広告を1分換算するとこのくらいの金額になります。それが無料でできるならいいですよね」といった具合に。

 

他にもメディアに出ることで学生が当社に入りたいと思ってくれるかもしれませんし、社員の家族が良い会社だと安心してくれるかもしれません。2人に1人ががんになると考えればマーケットは相当広いですし、ビジネスチャンスとも捉えられると思いますね。

 

金澤:西口さんはどうですか?

 

西口:僕も辞めたいと思わなかったですね。それまではもう何回も辞めようと思ったんですけど(笑)

 

僕の場合は、がんがわかった時は会社の人に言えなくて、手術が終わって通院での抗がん剤治療が始まった時に言いました。僕も渡部さんと同じで営業にいたので、数字のこともあって上司には言いにくかったんですね。それで人事部長に話をしました。

 

 

西口:彼はゲイであることを公言している人なんですけど、話をした時に、ふわっと包み込むような対応をしてくれたんですね。どうしたいか希望を聞いてくれて、制度についても説明してくれた。多分、その人事部長はこれまでに生きにくさを感じながら、マイノリティーの立場でいろいろな人と関わってきた経験があったのだと思います。だから、がんに関してもフラットに受け止めてくれたんじゃないかなと。僕はすごく良い人に相談できてラッキーだったと思います。

 

参加者の意見「病気でも気にしないと言ってくれる会社もある」

 

パネルディスカッションの後は複数グループに分かれて、参加者でのグループディスカッションが行われました。テーマは「なぜ、がんという病気で辞めてしまうのか」、そして「辞めなくて済むようにするにはどうすればいいのか」の2つ。たくさんの意見が並びました。

 

 

その後は手を挙げた数名が意見や感想を発表しました。その一部をご紹介します。

 

薬剤師としてがん医療に携わっている方

「私がもしがんの告知を受けたら、仕事を辞める理由は『家族との時間を取りたい』だと思っています。でも、皆さんの意見を見ていたら、そういう意見はほとんどありませんでした。

 

もしかしたら、私は患者さんの仕事への捉え方を勘違いしていたのかもしれません。『家族との時間を取ってくださいね』という医療者の提案は、もしかしたらその人の自尊心を傷つけているのかもしれない。そんな大きな気付きになりました」

 

がんになってから転職をした方

「がんになって、復帰してから数カ月で転職をしています。直属の上司はずっと働いてほしいと言ってくれたんですけど、人事は上司と連絡を取らず、『ルールはこうだから』の一辺倒。病気になる前から転職を考えていたのですが、人事の対応が納得できなかったことが転職の決め手になりました。

 

私は待遇面も給料面も向上させて転職をすることができました。応募の段階で病気のことも、週1で治療に半日時間が掛かることも伝え、そこを理解してもらえるのであれば選考に進めていただきたいという話をしました。断られた会社も当然ありましたが、その中でフルフレックスを導入している今の会社に巡り合い、半日休みを取っても他の日に残業して調整することで、他の方と変わらず仕事ができています。

 

会社に迷惑をかけてしまうとか、働かせてもらっているって考えの方も多いですが、私自身は20代でまだ若いせいか、働くことは自分と会社の契約としか思っていません。『自分はこれだけのことができるから、病気だろうが働かせてもらって当たり前』みたいな考えがあります。全ての会社に通用するとは思いませんが、『病気でも気にしない』と面接で言ってくれる会社もあることをお伝えできればと思って発表させてもらいました」

 

個人事業主の方

「白血病の治療をしながら働いている20代前半のスタッフがいます。私はもともと看護師で、相談支援をしていた一人を社会復帰するまでのリハビリとして、週に数回働いてもらう形で雇ったのがきっかけでした。

 

悩むことも多かったのですが、できることを言ってもらえると、協力すべきことが具体的に分かるので助かりました。また、困っていることや、病院の先生から言われたこと、治療の状況などのコミュニケーションが図れると、雇い主側としては対応がしやすく、安心感もあってありがたいです。

 

これから就職活動をする方は、『こういう病気だけど、ここまではできる』『こういう心配はあるけど、こんな活躍ができる』といったことを正直に話していただけると、企業は歩み寄りやすいのではないでしょうか」

 

国立がん研究センターの方

『がんになっても安心して働ける職場づくりガイドブック』の紹介をさせてください。実際にがん治療をしながら働いている方の体験談を集め、人事・労務としてどう対応すべきかをまとめた冊子です。大企業と中小企業編の2冊に分けていますが、8割は同じ内容です。ぜひご活用いただければと思います」

 

 

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取材・文・撮影/天野夏海

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