発起人と振り返る、約8年間の「がんアライ部」の活動 - がんアライ部
がん治療をしながら働く「がんと就労」問題に取り組む民間プロジェクト「がんアライ部」は、2025年をもって現行の活動を一区切りすることになりました。
2017年10月に発足して以来、勉強会や交流会、そして「がんアライアワード」など、さまざまな取り組みを行ってきた、がんアライ部。発起人4人とともに、約8年間の歩みを振り返ります。
※「がんアライ部」「がんアライアワード事例集」のウェブサイトは2026年3月末の公開終了を予定しています
がんアライ部の8年間で、特に思い出深いこと
事務局:約8年間の活動の中で、特に印象に残っていることは何ですか?
功能:がんアライ部発足の時です。実は、私はこの日の約3カ月前に夫を亡くしていて。「何もできないまま逝ってしまった」という喪失感がありました。
そんな時に岩瀬さん(代表発起人/当時ライフネット生命保険代表取締役社長)から声をかけてもらったのが、がんアライ部。夫はがんと就労をテーマに活動をしていたから、そこにスポッとはまった感じでしたね。

「がんアライ部」発足記者会見時の発起人集合写真。鈴木美穂さんは残念ながら予定が合わず、欠席でした
鈴木:私が最初に発起人としてイベントに参加した「がんアライアワード」で、とにかく参加企業の皆さんが暖かかったことを覚えています。
それまで企業側の立場から両立支援に取り組んでいる人と出会う機会は少なかったので、新鮮でしたね。いい取り組みが始まったんだなと感じました。
武田:がん罹患者を支援する活動はあったけど、企業に向けて両立支援の発信をする場はあまりなかったよね。両立支援は企業の視点から扱うべきだと思っていたし、これまで手の届かなかった人たちにアプローチできるようになって、うれしかったのを覚えています。
功能:あと、コロナ禍直前に行った「がんアライアワード2019」も印象に残っています。西口さんがあいさつしてくれたよね。
事務局:発起人の西口さんは「がんアライアワード2019」の約半年後、2020年5月8日に旅立たれました。2019年のアワードが、西口さんががんアライ部の活動に参加された最後の機会でしたね。
功能:夫が最後かなりつらそうな状況の中で自分のミッションだと感じていた「がんと共に働く」仕事に取り組んでいるのを見ていたので、西口さんが仕事をしながら自身の「キャンサーペアレンツ」の活動もして、さらにがんアライ部にも来てくれている姿を見て、もう、すごいなって。尊敬というか、何て言えばいいか分からないけど……とにかく彼の姿が強く印象に残っていますね。
武田:西口さん、いつもパワフルだったもんね。

最後のリアル開催となった「がんアライアワード2019」の集合写真。発起人の西口洋平さんは「ステージ4の胆管がん」の告知を受けて以来「仕事と治療の両立」を体現し続け、がんアライ部の数々の場面に協力してくれました
個人が参加できる「部活」の良さ
桜井:がんアライ部は「部活」っていう軽さがよかったよね。
健康経営や両立支援をテーマにした活動は本来国がやる領域でもあるけれど、国の事業になると提出書類が多かったり、堅苦しくなったり、事例を公開しにくかったりして、どうしても形式的になりやすい。
その点、がんアライ部は民間プロジェクトで、しかも部活。広がり方がゆるく、企業の関わりやすさが全然違ったと思う。
功能:参加企業の皆さんと一緒にがんアライ部を育ててきた感じがありますよね。がんアライアワードに毎年エントリーしてくれた、サッポロビールさんの本社で交流会をしたのも思い出深いです。

2019年7月サッポロビール本社で行った交流会には、人事担当者やがん罹患経験者を中心に26社33名が参加。サッポロビールさんからは『加賀棒ほうじ茶』『サッポロ生ビール黒ラベル』を、カルビーさんからはスナック菓子をご提供いただきました。交流会は参加者全員の「かんぱーい」ではじまりました
武田:がんアライ部が面白かったのは、誰かが強烈に引っ張わけではなかったこと。自然に集まって影響し合い、散って、また集まる。まさに部活のような活動で、それが心地よかったし、実は最も成果が出るやり方だった気がします。
鈴木:「企業に属する個人として、両立支援の活動をやりたい」という想いを持って、人事部に限らず各社で旗を振っている有志が参加してましたよね。集まっている誰にもやらされ感がなかった。だからこそ、自発的な動きから良いモデルが生まれ、それが他の企業に影響を与えていったのを感じていました。
武田:社内で孤軍奮闘している人たちがつながって、お互いにエネルギーをチャージし合える場所だったのは本当に大きかったよね。
事務局:がんアライアワードの事例集には「個人発の動き」が企業全体に伝播していったケースもありましたね。上司を連れて勉強会に参加してくれた方もいらっしゃったことを思い出します。
功能:想いがある人ががんアライ部の勉強会に参加して、それがきっかけとなり、後に企業として「がんアライアワード」のエントリーにつながったこともありましたね。トップダウン型とは真逆の流れが、なんとなくできていた気がします。
コロナ前に名古屋で行った勉強会でも、地域で両立支援の活動している方々ががんアライ部を上手に地域の活動に活かしてくださったのが印象的でしたね。
武田:がんアライ部の活動を足がかりにして、変化につなげているのが見えたよね。みんなフラットかつフリースタイル。自分の愛する会社を背負って、それぞれのやり方で参加してくれていたなと思います。
参加企業の皆さんのおかげで私たちもすごく楽しかったし、皆さんの社員を思う気持ちに触れることができて幸せでした。

「がん治療中の部下と上司の良い関係」をテーマに行った、第6回がんアライ部勉強会の集合写真。31社42名が参加し、質疑応答ではたくさんの質問が寄せられました(記事はこちら)
「がんアライアワード」が生み出した価値
桜井:「がんアライアワード」に毎年エントリーしてくれる企業も多かったよね。基本は前年と同じだけど小さなアップデートがあったりして、継続して両立支援に取り組んでいるのを感じたな。
受賞企業の皆さんががんアライアワード受賞のプレスリリースを出してくれていたのもうれしかった〜。

武田:アワードを通じて、大手から中小企業まで、いろいろな企業の取り組みをショーケースのように見せ合えたのが本当によかったよね。
「がん治療と仕事の両立はこういうもの」というイメージにとらわれず、ダイバーシティの観点から広く考えている企業もいて、すごく刺激になりました。
意外と地域企業の方が会社の枠を超えた取り組みをしていることも多くて、「こんなことまでやるんだ!」っていう驚きがたくさんあったなと思います。
鈴木:「小さい会社でも、配慮があればやれることはこんなにあるんだ」というのが見えましたよね。良い事例がたくさんあったなと思います。
功能:がんアライ宣言の写真もバラエティに富んでいて。大企業の公式発表にはない雰囲気があったのも楽しかったですね。
事務局:本社の写真の撮り方が、翌年以降のグループ会社のがんアライ宣言にも広がっていたのは面白かったですね。その写真がさらに他社の撮り方に影響を与え、その翌年に広がりを見せていたり(笑)。毎年各社からどんな写真が寄せられるのか、事務局メンバーも楽しみにしていました。

桜井:最初はホールディングスとしての取り組みだったのが横展開して、グループ各社がアワードにエントリーしてくれるようにもなったよね。同じグループなのに取り組み内容は全然違ったりして、それも面白かったです。
武田:グループ会社って、意外と横の連携がしにくいものなんです。だから、がんアライ部の活動を通して足並みがそろうのは本当に素敵なことだと思いました。
事務局:アワード受賞企業の事例集を見て、「この企業を紹介してほしい」と事務局にご連絡をいただき、そこから企業同士のコミュニケーションが生まれたこともありました。
桜井:競い合うのではなく、助け合い。まさに「部活」だよね。
鈴木:両立支援について主体的に考えてくれる人の輪は確実に広がったと思います。

8年間で起きた「がん治療と仕事の両立」の変化
事務局:がんアライ部発足からの約8年間で、「がん治療と仕事の両立」への意識や環境の変化を感じることはありますか?
桜井:ダイバーシティの文脈の一つとして両立支援に取り組む企業が増えたよね。女性活躍やLGBTQなど、そうした多様性の一要素としてがんアライ部の活動も受け止めてもらえるようになった気がします。
武田:わかる。働き方改革や多様性への対応の一つとして、両立支援が据えられるようになった感じはあるよね。リモートワークが普及して、がんに特化した制度を用意しなくても既存の制度や仕組みの中で対応できることが増えたと思います。

2020年から「がんアライ部アワード」表彰式はオンライン開催に。場所の制約がなくなり、北海道から沖縄まで、全国の企業が参加しやすくなりました
桜井:リモートで働けるようになったのは本当に大きな変化だったね。
ただ、非正規雇用で働く人たちやエッセンシャルワーカーにとっては難しい現実もあったと思う。潜在的にあった格差が可視化され、改めて認識された時期でもあったよね。
鈴木:「どんな状況になっても働きやすい社会に」という考え方はだいぶ広まりましたが、がんになったことで働きづらさを抱え、苦しんでいる人はまだまだいます。
マギーズ東京に相談にいらっしゃる中で仕事や働き方について悩まれている方は今もたくさんいるし、知り合いにも「がんになったことを会社には絶対言えない」「休職したらやりたい仕事ができなくなってしまう」という人がいて。
そういう意味では、がん治療と就労の問題を知ってもらうための活動は引き続きやっていかなければいけないし、特に両立支援への関心がない企業に対するアプローチが必要だなと思います。
事務局:「がんアライアワード」受賞企業の中には、「がんになった社員はいないけど、活動に賛同しているからアワードに応募する」という企業もいました。そういう事例を増やしていくことが大切ですね。

2021年にはがんアライ部部員からの相談をきっかけに、4回にわたってワークショップを実施して「がん治療と就労の両立支援ハンドブック」を作成。がん治療と就労を両立するための基本情報をまとめたフォーマットで、企業ごとにカスタマイズも可能です(詳細はこちら)
「がんと就労」の理想の未来とは?

事務局:「がんと就労」の理想の未来についてもお聞きしたいです。
桜井:「あちら側とこちら側」という分け隔てがなくなるといいよね。がんに限らず、育児や介護など、みんなそれぞれに何かしら事情があって、それぞれに枠があるけど、それがなくなってボーダレスになるのが理想かな。
武田:言っていないだけで、働くことにハンデを持ってる人はたくさんいるからね。その前提でお互いに配慮できると働きやすくなるし、がんになったときも言い出しやすくなると思います。
事務局:「がんに特化した制度」よりも、「誰でも活用できる制度」。がんアライアワードの審査会でも、よくそういった話になりましたね。
功能:ボーダレスという意味では、外国人への理解も重要ですよね。現状の両立支援は日本人を想定していることが多いけど、今後は必要な観点になると思います。
桜井:外国人を採用して、必要な配慮をはじめたことをアワードに記載してくれた会社もあったよね。
功能:日本と異なるカルチャーと触れ合うことで、良い意味でゆるくなっていくといいですね。
武田:私は配慮の軸が増えるといいなと思います。今の配慮って、勤務時間のことしか考えられていないことが多いんですよ。時短勤務はもちろん大事だけど、仕事の難易度や納期の長さも配慮の軸にしてほしい。
例えば、体調に波があるときに「明日までに仕上げて」は苦しいけど、納期に余裕があれば対応できますよね。それなのに配慮の切り口が勤務時間だけになっていることが、育成を妨げたり離職につながったりしている気がします。
功能:あとは、「がんとともに働く、生きる」という視点で考えた時に、企業で働き続ける以外の選択肢も必要だと思います。「働く=会社員」ではないから、企業が自社だけで両立支援を完結するのではなく、社会全体の仕組みの中で考えた方がいいんじゃないかな。
鈴木: 選択肢があった上で、本人が事情に合わせて、自分で選ぶことができる。そんな環境を広げていくことが大切ですね。
2026年からは「WorkCAN’s がんアワード」が始動
事務局:がんアライ部の活動は一区切りとなりますが、「WorkCAN’s(ワ―キャンズ)」さんが事務局として、「WorkCAN’s がんアワード」をスタートします。
桜井さんと武田さんはWorkCAN’sのメンバーとして、今後新たなアワードに携わっていくんですよね。「WorkCAN’s がんアワード」はどのようなアワードになるのでしょうか?

「WorkCAN’s(ワーキャンズ)」は「企業内ピアサポーターの育成」に取り組む団体。団体名には働くの「Work」、がんの「Cancer」、働くがんサバイバーができることの「Can」の意味がこめられ、一般社団法人CSRプロジェクトを中心に、企業のがん経験者・支援者の有志が参加する”部活動的”な活動です
桜井:名称や運営体制は変わるけど、基本の理念は同じです。定性的なストーリーを重視してきたがんアライ部の考え方は、とても生かせると思っています!
武田:開催時期は「がんアライアワード」と同時期(11〜12月)にするつもりです。毎年恒例のイベントとして、「そろそろアワードの時期じゃない?」というソワソワ感があるのはいいよね。関わってくれる企業の皆さんも、熱意を持って取り組んでくださっています。
桜井:新しい活動もしっかり続けていきたいね。2026年から「WorkCAN’s がんアワード」がスタートする予定ですので、皆さんぜひよろしくお願いします!

「広げよう、がんアライの輪」ポーズで発起人&事務局で記念撮影。約8年間、ありがとうございました!「WorkCAN’s がんアワード」にもぜひご注目ください!
活動終了について
「がんアライ部」は、2026年3月末日をもって、活動を終了いたします。それに伴い、関連するウェブサイトも同日閉鎖いたします。これまで多大なるご支援をいただきましたこと、心から感謝申し上げます。
お知らせ
がんアライ部の活動は終了となりますが、がんと就労に関するアワード「WorkCAN‘s がんアワード」が新たに立ち上がります。運営はWorkCAN’s様です。
この新たなアワードには、「がんアライ部」発起人の桜井や武田が関わっています。また「がんアライアワード」を受賞された企業様も運営に参加されています。これまで活動を共にしてきた方々が、新しいかたちでの「がん×就労」に関する活動をスタートさせることを、私たち事務局一同、心から応援しています。
がんと就労の両立支援に引き続き取り組まれる企業・団体の皆さまは、ぜひ新たなアワードにご注目ください。詳細は下記リンクからご確認いただけます。
改めまして、これまでがんアライ部の活動に多大なご支援、ご協力をいただき、本当にありがとうございました。皆さまの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
がんアライ部事務局一同